タリバンを知るための「教養としてのイスラーム法」入門【中田考】「隣町珈琲」前編
「隣町珈琲」中田考新刊記念&アフガン人道支援チャリティ講演(前編)
アフガニスタンでは今、第二次タリバン政権が発足し始動しているにもかかわらず、国際社会はタリバン政権をテロリスト指定し、経済制裁をいまだかけ続けている。そのため食糧危機に見舞われ、餓死者が出ているという状況だ。一方、ロシアや中国はいち早くタリバン政権を支持し、日本も人道支援に乗り出そうとしているが、国際社会の動きは遅い。そもそも「タリバンとは何か」。「なぜタリバンは国際テロリスト指定を受けているのか」。そして「今後アフガニスタンや国際情勢はどうなっていくのか」。『タリバン 復権の真実』(KKベストセラーズ)を上梓したイスラーム法学者の中田考氏が、実業家で文筆家の平川克美氏が主催する「隣町珈琲」にて講演を行った。まさに目からウロコが落ちる内容。その【前編】を公開する。
■「世界公認テロリスト」による政権
先日、日本でも衆議院議員選挙がありましたね。世界のどこでも、政治とはとりあえず選挙のことであり、政治とは民主的な選挙によって変えていくものであり、そこに参加する人たちが意識が高く、選挙に行かない人たちはけしからん……という流れがあります。
今日はタリバンの話を通じて、そのような価値観とは全く違う世界がある、というお話をしていきたいと思います。
タリバンはずっと「反体制派」とされています。日本にも「反体制派」と言われる人たちはたくさんおり、共産党ですら公安調査庁からそのような扱いを受けています。
その意味では、タリバンが「反体制派」とされていること自体はべつに珍しくはないわけですが、タリバンの場合、アフガニスタンについ最近まであった親米政府からそう扱われていただけでなく、今でも世界中からそう扱われており、実際に国連からの制裁を受けています。
今のムハンマド・ハサン・アフンド首相も含めて国際的には「テロリスト」とされていますから、その「テロリスト」とされている人たちが政府を作ってしまった状況に対して、国際社会は「どうしようか?」となっているのです。
一番困っていることは、「テロリスト」である以上は制裁をしないといけないわけですが、政府自体が「世界公認のテロリスト」なので政府機関、例えば中央銀行も制裁対象の「テロ機関」になってしまったことです。そのせいでアフガニスタンへの送金すらできない状況になっています。
この状況に対して、当のタリバンは「自分たちをテロリスト認定したのは誤りであり、早急に制裁解除すべきである」という立場をとっています。
以前「イスラーム国」というものがありましたね(私はそれに関わって、ずいぶんいろんなことになったわけですが)。彼らは2014年に「カリフ制国家」というものを作りました。この時にはシリアとイラクの国境をまたいだ、500万人くらいの人間が住んでいる地域を征服・支配して自分たちのカリフの国を建国したのでした。
この時のイスラーム国は、そもそも現在の国際秩序自体を否定しました。国連を否定し、それどころか国民国家の枠組み自体さえも否定する立場をとっていたわけです。その結果、当然イスラーム国は国際的な反体制派とされました。
しかし、今回のタリバン政権はそうではありません(講演内では便宜的に「タリバン政権」と呼びますが、彼ら自身は「アフガニスタン・イスラム首長国」を名乗っています)。自分たちをあくまでも「アフガニスタンという国の代表」として位置づけており、近隣諸国とも仲良くしていこうという立場をとっています。
彼らの本来の長期的な目標は、「イスラーム世界をカリフの下に一つにまとめる」ことであり、この目標は私自身がタリバンと直接話をした時にも確認していますが、とりあえず現時点では他のイスラーム諸国とも友好政策を取っていこうとしています。
だから彼らは、自分たちをテロリストとして扱うことは止めるよう主張しています。私もそうすべきだと思いますし、そもそもテロリスト認定したことが間違いだと思っています。
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